1人が本棚に入れています
本棚に追加
そして名楽亭の店主のプライドと賞金…。
それに俺の今まで貯めたバイト代は最早、風前の灯火であった。
(食い切るな!
お願いだ! 食いきらないでくれ!!)
俺は祈るような気持ちで俺は、田辺の餓えた野獣の様に食い散らかす鬼気迫る後ろ姿を見守る。
恐らく、店主も俺と同じ思いだった筈だ。
だが、現実は残酷である。
(お…終わった……。
サヨウナラ……俺のバイト代……。)
時間にして約7分弱。
田辺はあの有り得ない量の、丼の最後の一口を一気に掻き込むと、ゆっくりと俺の方へと振り向く。
そして、邪道なる微笑みを俺に向ける。
「せ・ん・ぱ・い・・約束、忘れていませんよね?」
忘れてはいない。
だが、本音を言えば忘れたかった。
絶望を突き付けてくる食の悪鬼と化した後輩、田辺。
だが、そんな絶望の中、不意に高笑いが響き渡る。
その声は店主のものであった。
「やるじゃないか嬢ちゃん?
だが、これで終わったと思うのは総計だぜ?
実は地獄極楽丼には最終形態があるんだよ。
コイツを食い切ってこそ名楽亭を制覇したと言えるんだが、どうする嬢ちゃん?」
「ふーん、それを食べる事で私に何の特があるの?」
「もし食べきれたら、賞金10万円と名楽亭料理一週間食べ放題券を進呈されるが失敗すれば罰金1万だ。
どうだい挑戦するかい?
それとも臆病風に吹かれて逃げ出すかい嬢ちゃん?」
「勿論、受けて立つわ!
で条件は?」
「出されたモノを30分以内に完食、それだけだ。
じゃあ、いくぜ嬢ちゃん?」
「その言葉、後悔する事になるよ親父さん?」
「ふふ……そいつは楽しみだ。」
親父さんは不敵に笑った。
そして、俺はその数分後、親父さんの笑いの意味を知る事になる。
何故なら、田辺の目的に出された代物は最早、丼とすら言えないモノだったからだ。
2メートル程の熊に匹敵する巨大な丼。
その重量は、いかほどであろうか?
余りの重さに普通の容器では耐えられないのか、特注品の鉄どんぶり。
それは余りに重すぎて4人がかりで、漸く持てる代物だった。
そして、流石の田辺もその丼の威圧感に一瞬、怯む。
だが、それも一瞬だった。
(これなら勝てる!
大人気ないが、今は良くやったと言わせてもらうぜ、親父さん!)
俺と親父さんは確信していた。
これで流石の田辺も終わりだとーー。
そして、その考えは間違えてはいなかった。
最初のコメントを投稿しよう!