第壱幕:其乃名天照大御神

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いつの間にか居た全裸の少女が自身の名をアマテラスと名乗ってから数十分が経ち、今は悠も落 ち着きを取り戻したのか自称アマテラスをソファに座らせている。 流石に全裸のままでいられるのも困るので少女には自分の予備のワイシャツを着せている。 着慣れてないのか、少女は裾を持ち上げては下げ、匂いを嗅いでいたしている。 「こんなのしかねぇけど、とりあえず飲め」 「いただこう」 少女の前に緑茶を淹れた湯呑を置き、悠も自身の分の湯呑を持ち対面に座る。 とりあえず、聞きたい事は山ほどあるが少女は茶の匂いを嗅いだ後に湯呑に口を付けた為一口飲み終えるのを待つ事にした。 「ふむ、濃厚な匂いに豊富な茶の渋み、この茶は伊勢産「さやまかおり」かのう」 「い、伊勢?……あぁ三重県か、正解だ良く分かったな」 「茶には少々詳しくての。ふむっ、今の伊勢は三重と言うのか」 先程から気になっていたが、この少女の喋り方は時代錯誤というよりかなり古い喋り方だ。 現在で言う標準語が身についている悠にとっては馴染のないものだった。 「えっと……?それでお前は確か自分の事をアマテラスって言ったよな」 「お前とは随分な言い様じゃが、まぁ良かろう。いかにも、わっちはアマテラスじゃ」 「アマテラスって……アレだよな?日本の最高神で太陽神の高天原を統治する天照 大御神(あまてらすおおみかみ)の事だよな?」 「そうじゃ。若いのにわっちの事を知っているとは感心じゃな」 学校の日本史で習って頭に入っているだけと言う事実はこの少女の笑みでいう事は控えた。 だが、悠の眉間に寄る皺はかなり深くなっていくばかりである。 「その、なんだが。俺にはお前がそのアマテラスって言うのが全然信じられん」 「何故に?」 「そもそも現代日本に関わらず殆どの人間は神なんて存在は眉唾物にしか思われてない。精々おとぎ話の登場人物ってぐらいの認識だ」 「なんと……長い年月が経ってわっちの信仰がそこまで消えているとは嘆かわしい……」 悠から告げられた現在の状況を聞き、アマテラスを名乗る少女は盛大に落ち込んでいるように見える。 そんな少女を見る悠の表情は何とも言い難い難しい物だった。
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