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――マジかよ、相変わらず運が悪いな……。
折り畳み傘を持ってはいるものの、これほど強い雨では完全に防ぐことは敵わない。
少し濡れる事を覚悟しながらも悠は折り畳み傘を開き外へと踏み出す。
なるべく身を縮ませてはいるが、それでも傘から伝って落ちてくる水滴や風で横から殴る様に雨は当たってしまう。
身体が少し濡れるだけでも外気の寒さで小さく身が震える。
――帰ったら、風呂に入ろう……。
一向に弱くなりそうもない雨の量を恨めしく思いながら悠は歩を進める。
ザーッと頭上から降る雨の音の強さに思わずため息が出そうになりながら。
――……クゥ……ン……。
「ん……?」
雨音で良く聞こえなかったが、何かが鳴いた様な音が聞こえ、つい足を止めてしまう。
その場に留まり、数秒待って聞こえた音が本物か確認してみるが聞こえてくるのは雨音だけだった。
「……気のせいか?」
耳がおかしくなったのだろうかと思いながら再び歩みを進めようとする。
――……クゥン……。
「……!!」
今度ははっきりと聞こえ、音……ではなく、鳴き声のした方へ身体を向ける。
目に見えるのは左右の住宅を囲むブロック塀の間、路地裏とも言える様な所だ。
光が差していないこの場では一寸先が暗闇で覆われており不気味であった。
「…………」
それでも好奇心を隠せず、中へと入っていく。
身を滑り込ませたもの、案外と狭く片方の肩がブロック塀に当たり、傘もガリガリと引っかかってい
る。
駄目押しに元々光が届かない場所なのか視界がとてつもなく悪い。
足元に十分気を付けながら進み、数メートルほど歩いた場所に悠が見たのは、美しい白い毛並み
が雨と泥で汚れた中型よりも少し小さ目な犬だった。
「こんな所に犬……?」
都会であるこの場所には珍しい犬だった。
この日本で良く見る柴犬に似ているが細部がかなり違う。
なにより、顔に隈取の様な赤い模様がある犬は見たことが無かった。
触れてみると、雨のせいか身体がかなり冷たく感じる。
「可哀そうに。酷く弱っているじゃねぇか」
見た所首輪もしておらず野良犬と判断しても良いだろう、そう思った悠は鞄を肘に掛け開いた両手で犬を持ち上げた。
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