始幕

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多少重いだろうと覚悟したが、予想を裏切り軽かった。 暫く何も食べてないのか、毛皮越しに伝わる骨の感触があった。 「今家に連れてやるからな」 誰かの犬だったら問題事ではあるが、こんな犬を近所で飼っている人は見かけたことが無いから問題ないだろうと思いながら路地裏を抜けて行く。 ちょうど一人暮らしは寂しく思いペットでも飼いたかった事もあり、なるべく犬がこれ以上雨に濡れないようにしっかりと抱き自宅へと向かって行った。 ※ 「よ、ようやく着いた……」 犬を拾って帰宅し、疲労からかいつもと違うため息が漏れた。 軽いと言え、教科書等が入った鞄と傘を固定しながら歩くのは中々の苦行だった。 とりあえず、とリビングまで移動し、濡れても構わない場所へと犬を優しく下ろす。 急いで脱衣所へと向かい、大きめのバスタオルを二枚持ってくる。 「ちょっとゴメンよ」 一つのバスタオルで犬の身体を包み、水気を絞る様に拭いていく。 随分と雨に晒されたのか、毛皮に吸いこんいでる水の量が多かった。 「ワフッ、ワフッ!」 「ごめんよ、我慢してくれ。ちゃんと身体拭かないと風邪ひくから」 顔あたりを拭き始めると、気に入らなかったのかくすぐったかったのか分からないが犬が弱々しく吠えてきた。 犬が答える訳でないが、謝罪しながらワシャワシャと身体を拭いて行く。 「こんな所かな」 ある程度拭き終わり、タオルを犬から離すと、毛がボサボサとして全くの別犬になっており何となく間抜けに見えた。 こちらを見やる犬の目が気のせいか恨めし気に見える。 「……犬が食える様なものあったかな」 いったん犬から視線を外し、台所へと向かう。 とりあえず少し大きめの丸皿を取り出し、冷蔵庫を開ける。 ソーセージやハムや色々とあるが、これらをそのまま食べさせて良いのか分からなかった。 少し悩んだ結果、とりあえず牛乳を丸皿へとなみなみと入れ電子レンジに突っ込む。 雨で濡れて身体を冷やしているのにこのまま出すのは流石にまずいと判断したのだろう。 二十秒程温め取り出すと、牛乳は常温というより少し温い感じになった。
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