第1章

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「その問題のトイレって、この化学教室の横のトイレだよな?今まですすり泣きなんて聞いたことがないぞ」  楓翔が面白くなさそうに言った。しかも目線はこの学校周辺の地形図に釘付けである。こちらも普段通りになってしまっていた。 「ううん。すすり泣きか。二つの可能性が考えられるよな」  桜太としてはこのまま学校の傾斜を発見しただけで終わりたくない。しかもそこで終わっては新入生獲得へのアピールがなくなってしまう。だから必死に興味を引こうと言っていた。 「二つ?どういうものだ?」  この部をまとめる努力を怠らないのは芳樹だ。ここでもちゃんと話を聴いてくれている。しかし手にはカエルが乗っていて、こちらもいつもどおりだった。 「一つは単純、本当に誰かが泣いていたのを聞かれた可能性です。しかしそれならば噂にならない。ということは二つ目、何かの空耳だった可能性です」  桜太が立ち上がって発表すると、ようやく科学部の全員の注目が集まった。 「空耳ね。それならば周波数の問題として解決できるな」  莉音が一気に結論を言ってしまう。ここですぐに周波数に結びつけてしまっては怪談も何もない。しかし、残念ながらここにいるのは不思議は科学で解明できると考えている奴らだ。科学的には考えられても怪談的には考えられない。よって、すすり泣きも怪談として盛り上がることなく検証されてしまう。 「問題はその音源がどこにあるかだな」  七不思議の調査としてはどこか間違っているが、科学部としては正しい姿勢のまま亜塔が話を進めていく。 「この二階のトイレなんて普段利用しないよな。大体授業では実験をしなければ北館に用事はないし。科学部がたまに使うくらいだぞ」  本当に空耳でもすすり泣きがあるのか疑問に思うのは迅だ。
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