第1章

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「ええっ。中沢君に伝えてってメールしたのに」  林田はそう叫んで莉音を見るが、莉音は素知らぬ顔をしていた。おそらくメールは無視されている。 「実験はいいんですか?」  追い払いたい楓翔がそう訊いた。また謎の同胞に対する行動をされては困る。 「そこは問題ない。今日はもう機械にセット済み。後は機械と有機化合物に任せておけばいいのさ」  林田はそう言って笑うが、誰もがまた大学院生に押し付けたのではと疑った。まったく、林田を研究員として雇っていて大丈夫なのかと大学の心配をしてしまう。 「まあいいか。諸君、現場に向かうぞ」  色々と突っ込みたい桜太だが、林田のことは科学部とは関係ないので放置しておくことにした。ちなみに現場と言ったのは、トイレと言ってしまうと連れションみたいだからだ。さすがにそれは恥ずかしい。  どう考えても整備不良。そういう場所がどこにでもあるんだなとトイレに着いた科学部の誰もが思った。普段使っている男子一同だが、ささっと用事を済ませてしまうので、これほど酷いという事実に気づいていなかったのである。 「男子トイレって、どこもこうなの?」  人生初の男子トイレ体験をしている千晴は呆れていた。掃除はされているものの、鏡はひび割れているし、あちこちガムテープで補修されている。さらに二個ある個室の一つは使用不能の張り紙がされていた。しかもその張り紙が何だか古ぼけている。 「女子トイレは綺麗なのか?」  桜太としては男子トイレと差があるという事実が驚きで思わず訊いていた。 「北館といえど普通よ。他のトイレと何にも違わない。あのさ、ひょっとしてこれ、過去の科学部員がここで実験した痕とか?」  違いがある。それで千晴は気づいた。圧倒的に男子の多い科学部が犯人ならば、女子トイレと差が出来るのではないか。
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