第一章

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「つくり込みスゲーな……」  目の前に現れた扉を上から下まで眺め、功基は呆然と呟いた。重厚感のある引き戸はまさしく貴族の豪邸を思わせるそれで、階段横の壁からつたう葉が額縁のように扉の上部を飾っている。  いくら『コンセプト』が勝負の店とはいえ、こりゃ手入れが大変そうだ。  呆れ気味に息をついて、アンティーク調の黒いドアハンドルを片手で引く。  カランと鳴り響いた、これまた古風なベルの音。 「……おお」  漏れでた感嘆。天井から吊り下がるシャンデリア型の照明が、黒を基調とした室内に淡いオレンジを落としている。  壁には白いレースカーテンと、中世ヨーロッパの貴婦人のドレスのように重なりあうベルベット製の真紅のカーテン。  艶やかな黒い床には厚みのあるレッドカーペットがひかれ、功基が恐る恐る足を乗せると靴底が柔らかく沈んだ。 「お帰りなさいませ、お坊ちゃま」 「いっ!?」  響いた低い声に顔を跳ね上げると、奥へと繋がるカーペットの上に燕尾服の男が一人。白い手袋を嵌めた右手を胸に、恭しく下げた頭をゆっくりと上げる。  柔らかそうな質感の黒髪はトップがやや長く、両目にかかる前髪が双眼を覆い、黒い影をつくっている。それでもわかるくらい整った顔立ちをしているが、どうにも無表情なため華はない。  歳は功基とさほど変わらないように見えた。
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