第一章

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 とはいえ、それよりも功基の意識はただ細身なだけではない、均衡の取れた身体に向いていた。『イケメン』に、『スタイル良し』。それだけでも腹立たしいというのに、加えて自身よりも高い身長に、功基はつい、内心で舌打ちした。 「ご予約のメール等はお持ちでしょうか」 「あ、ハイ。これ……」  慌てて手にしたスマートフォンを操作し、近づいて来た彼に事前に届いていた予約完了画面を見せる。  身長差から少しだけ屈んだ男は確認が取れたのか、小さく頷くと「ありがとうございました」と一歩下がった。 「南条功基様ですね、お待ちしておりました。私は本日担当させて頂きます、フットマンの『和哉』(かずや)と申します」  再び胸に手をあてたポーズで頭を下げられ、功基はとりあえず「はぁ……」とだけ返す。  別に、『執事様』の接待を受けたくて、この店に足を運んだのではない。目的は別にある。  とはいえ、この和哉とやらは、そんな功基の心内を知らない。仕事を全うする彼へ失礼があってはいけないだろうと考えた結果が、先程の「はぁ……」だった。  曖昧な言葉って便利だよな。そんなコトを考えつつ、先を促す和哉の半歩後ろについて歩を進める。 「こちらへのお帰りは初めてでございますか?」 「へ? ああ、ハイ。初めてです」  問われた内容が来店回数を示しているのだと気づき、素直に答える。
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