初めてのデート

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隆志は走った。 全速力で走った。 ジャケットとズボンがクシャクシャになるのも構わず走った。 生まれて初めてのデート。 ゆかりさんと2時に映画を見る約束をしていた。 それが電車の事故で遅れてしまった。 だから、必死に走った。 上山隆志が山本ゆかりと初めて会ったのはこの4月。 高校三年生になると大学受験の準備のためクラブ活動はなくなる。 隆志が所属していたサッカー部も朝練がなくなり、毎朝7時30分の電車に乗るようになった。 そしていつもドア横に立って受験参考書を読んでいた。 ふと気がつくと、反対側のドアと座席の隙間に体を入れ自分と同じように 本を読んでいる女子高生がいた。 えんじ色のリボンとセーラー服に縫いつけてあるマークは、都内の有名なお嬢様学校だ。 隆志の通っている高校よりも少し偏差値が高い。   長いまつ毛、   きれいな澄んだ瞳、   鼻先が少しツンと上向きで、   肩まであるつややかな黒髪。 ―可愛いー 隆志の心臓がドクンと鳴った。 やがて彼女の横顔を参考書の端からそっと盗み見るようになった。 あるとき彼女が本から目を離したときに偶々目があってしまった。 隆志は慌てて反対の方角を向いた。 隆志の顔は真っ赤になっていた。 5月の連休が終わった ある日、電車の接続が悪く車内は混んでいた。 隆志はいつもの定位置のドア横に体を滑り込ませようとしたが、 勢いよく乗り込んできた乗客に反対側のドアまで押され彼女に体がぶつかった。 「ごめん」 「いえ」 恥ずかしそうにうつむいたままで、小さな可愛い声が返ってきた。 大柄な大人たちにおされて、隆志は彼女と体が密着して動けなくなった。 彼女の頭はすぐ目の前にあり、顔が自分の胸にあたっている。 わざと体をひっつけていると思われたくなかった。 隆志は彼女に下半身が密着しないように腰を少し後ろにひいた。 しかし、その分顔が前にせり出した。 彼女のきれいな黒髪が電車が揺れるたびに隆志の顔の前にふわっと舞い、 甘いシャンプーの匂いが鼻にまとわりついた。 隆志は思わず生唾を呑み込んだ。 自分の体が興奮しているのがわかり、なんとか態勢を入れ替えようとしたが、 混んでいて体が思うように動かない。 次の駅に到着し、ドアが開くと、すぐに彼女から体を離し外に飛び出した。
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