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プラットホームに降りたとき、他の乗客と体がぶつかりカバンを落とした。
隆志は急いでカバンを拾ってまた乗り込もうとしたとき、無情にもドアは閉まってしまった。
彼女はプラットホームにおいていかれた隆志に気がついた。
電車はゆっくりと動き出した。
隆志は無意識に彼女に向かって手を小さく振った。
彼女もそれにつられたかのように少しだけ手を振った。
隆志の胸は熱くなり、何か熱いものがじわっと喉もとにこみあげてきた。
―彼女がこたえてくれたー
それが何よりも嬉しかった。
その日学校で何があったか全く思い出せないほど興奮していた。
翌日、残念ながら電車はそれほど混んでいなかった。
彼女はいつものようにドアの左隅で本を読んでいた。
そして隆志が乗ってきたのを見て微笑んだ。
隆志の胸の奥がキュッとなった。
足が自然に彼女のすぐそばまで動いた。
「おはよう」
隆志はうつむきながらやっと聞こえるくらいの小さな声で挨拶をした。
「おはようございます」
彼女の声は絹糸のように細く透きとおっていて、心の奥にすっと入ってきた。
耳がほてっている。
自分の顔が真っ赤になっているのがわかった。
―恥ずかしかった。で も嬉しかったー
その日は、それ以上は何もいえなかった。
窓の外を見ながら時々彼女を見ていた。
ただ、乗換駅で下りるとき、少しだけ右手をあげて小さく振った。
彼女も笑みを浮かべて同じように小さく手を振った。
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