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「行かない」
「お母さんがなんていうか」
「そう」
隆志はそこで黙った。
そのとき電車が乗り換え駅につき、ドアが開いた。
「あげる」
隆志は黙ってチケットを一枚彼女に押し付けると、電車からおりた。
そしていつものように手を振ることもなく、プラットホームを逃げるように走った。
翌日は別の時間の電車に乗った。
いらないと言って返されるのが怖かったのだ。
それから期末試験が終わるまで、いつもの時間の電車に乗らなかった。
そして期末試験が終わった土曜日、
隆志は渋谷に行ってデートの為にジャケットとズボンを買った。
家に帰ってからは部屋に閉じこもり、映画を見た後に行く喫茶店をグーグルで何度も
シミュレーションして、デートのノウハウをインターネットで読み込んだ。
2時に映画が始まり、4時過ぎに終わり、近くの喫茶店でケーキを食べて、それから美術館や
赤レンガ街に行き、そして帆船日本丸のところに来ると大体夕暮れになり、ネオンがきれい
に見える。
それから観覧車に乗るとぐっとムードが高まる。
・・・二人だけの空間。
そこで手を握っていいのか、キスまでしていいのか、・・・ひとりニヤニヤと妄想にふけっていた。
デートについての記事を読むたびに興奮し、結局その日は殆ど眠れなかった。
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