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なんとか上映開始時間に間に合った。
しかし映画館の入り口にゆかりさんはいない。
しまったと思い周囲をキョロキョロと見回した。
もしかしたら帰ってしまったのかもしれないし、あるいは既に中に入っているのかもしれない。
こんなことならチケットを渡すとき、自分のスマホの電話番号を一緒に渡して置けばよかった。
隆志はゆかりさんが来てくれるものだと勝手に考えていた。
少しの間入り口で、中に入った方がいいのか、それとも待っていたほうがいいのか、迷っていた。
もぎり嬢は変な顔をして隆志を見た。
隆志は慌てて視線を逸らした。
そのとき、薄いピンクのミニのワンピースをヒラヒラさせながら小走りで走ってくる女性がいた。
ゆかりさんだった。
「ごめんなさい。遅れちゃって」
ゆかりさんはそういって舌をペロッと出し、ニコッと笑った。
見ると頬が少し赤く、ピンクの口紅を塗っている。
―可愛いいー
隆志のイライラは一瞬で消えてなくなった。
「僕も電車が止まっちゃって、焦ったんだ」
「そうなの」
そのとき上映開始ですという声が聞こえた。
隆志はゆかりさんと一緒に劇場に入った。
案内のお姉さんがチケットを見て館内を指差した。
「シアター3はそこから ・・・ がって二つ目です」
隆志はよく聞き取れなかったが、案内嬢の指す方向に急いだ。
そして、最初の角を曲がって二つ目のシアターに入った。
シアターの中は既に照明が落とされよく見えない。
隆志はチケットに印刷されているD列13番14番という席を見つけると、ゆかりさんを奥の席
に座らせた。
何かの香水をつけているのかいつものシャンプーとは違う甘い匂いが漂ってきた。
―とりあえず第一ステップは成功―
隆志の心はやっと落ち着いた。
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