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「今日はここだね、ネクロ」
山奥の小さな廃校。
血の塊を思わせるような紅い頭巾、傍らには漆黒のフクロウ、とても現代の人間とは思えない姿の少女が、そこに居た。
誰がどう見ても、童話か何かの登場人物だと思うだろう。
だが彼女は、現実に存在する人間だ。
「入ろっか」
鎖で厳重に閉鎖された入り口を、彼女は引っ張る。
だが、ガシャリと音がするだけで開きそうも無い。
「……壊さないと駄目みたいだね」
彼女が手を翳すと、そこには青白い靄のようなものが現れる。
やがてそれが晴れると、彼女の手には木こりが使うような両刃の伐採斧が握られていた。
「えいっ」
彼女がそれを振り下ろすと、錆びた鎖はいとも容易く破壊されてしまった。
閉鎖されていた扉を軽く蹴飛ばすと、恐怖と同時に誘われているような感覚に陥る深淵が待ち受けていた。
「電気、点かないよね。廃校になったの、もう30年も前だし」
少女は、躊躇うことなく足を踏み入れる。
躊躇いつつ中に入る者なら居るかもしれないが、彼女は散歩にでも来たかのような軽やかな足取りでそこに入った。
「……おーい!誰か居ますかー?」
少女は大声で人を呼ぶ。
当然、返事は無い。
「……居たら気持ち悪いね。行こっか、ネクロ」
応答するかのように、フクロウが鳴く。
斧を手にした不思議な少女は、フクロウと共に先へと進む。
最も、この廃校のどこに向かおうとしているのか、そんなことは彼女自身にも全く分かってはいないのだが。
ふと、彼女は音に気が付いた。
自分の後方、入り口の方だ。
「閉まっちゃったみたいだね、ネクロ。そろそろかな!」
彼女の言葉が終わる寸前に、校舎の雰囲気がガラリと変わる。
彼女に何か変わった様子は無いが、もし全く別の一般人が居たら、変化した雰囲気だけで恐怖し、その場で気絶なり失禁なりしていたかもしれない。
「明かりを付けましょランタンに~っと」
再び手を翳すと、再び青白い靄が現れる。
そして晴れると、彼女の手には火の付いたランタンが握られていた。
ランタンの火は、周囲の異常な光景を照らし出す。
大量の血痕が散った廊下、明らかに破壊された形跡のある壁や床、そして少女の眼前に現れた作業着姿の男を、照らし出した。
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