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「ほら、お姉ちゃん、あの奥の電車見える?」
隼人が指を指した先には、変わった形の短い車両が、車庫の奥の方で止まっている。
「あれ、あれも黄色い電車だね」
「うん、あれは『デト』って言って、線路の材料を運ぶ電車なんだよ」
「ふうん、あの電車は見たことがないなあ」
「うん、あれはめったに見ることができないんだ、一週間に二回しか走ることがないから」
「そうなんだ、じゃあ、あの電車もハッピートレインだね」
「うん、でも僕、一番近い場所で写真撮ったことがあるよ」
隼人は、また携帯電話の画像を私に見せてくれた。見ると隼人が、さっきの電車の横で、直立して立っている画像だ。
「かっこいいね、どこで撮ったの?」
「これはね、京急フェスタで撮った写真なんだ、いつも見れない電車もすごく近くでみれるんだよ」
「ふーん、これはお母さんと一緒に行ったの?」
「ううん、このときはおばあちゃんと二人で行った、お母さんは仕事だったかな」
私は、隼人に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。いや、今の私がさみしい思いをさせているわけではないのだが、隼人にとって、この生活は充実しているのか、仕方がない、とは言っていたけれど、母親が一緒の時間を作れないことを理解しているのか、もしかしたら、隼人と私が出会わない未来のほうが、二人にとって幸せなのか、私は隼人を見つめながら、また張り裂けるような胸の痛みを感じていた。
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