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私は、こんな話をしている隼人の顔を見て、今まで重たかった頭の中が、一気に軽くなっていった。
安心した、隼人が私のことを好きであった、
というよりも、
私が、隼人を、
野球に連れて行ったり、
一緒にサツマイモを掘ったり、
電車を見に行ったり、
海に行ったり、
そして、隼人を、いつも笑顔で見守っている、そんな私が未来にいる。
三崎口駅に着いた。外は夕暮れ時になっていた。階段を隼人と駆け上がって、改札口を出て、私は、隼人のバスが来るまで一緒に待つことにした。
「あ、思い出した」
隼人は、さっき改札でタッチした定期入れをひっくり返して、私に差し出した。
「これ、僕のお母さん」
私は、その写真を見つめた。何年経っても、忘れないようにと。ずっと見つめた。
人は、未来を知ることができるとしたら、きっと、二つの選択に迷うだろう。
未来を知れば、きっと後悔する、知らない方がいい。
どうしても、未来が知りたい。自分が頑張った世界はどうなっているのか。
少なくとも私は、偶然の流れで知ることになったのだけれども、
知ることができて、良かったと思っている。
隼人が見せてくれた写真には、隼人と、しわが少し増えた私が、畑で大きなサツマイモを持って、隼人を抱きかかえて笑顔で写っている。
私が今まで見せたことがないような笑顔で、その写真に写っていた。
隼人君、お母さんに、よろしくね
私は再び駅に戻り、品川行きの電車を待つことにした。
品川に着いたら、身支度をして、ここに帰ろう、隼人との生活の準備のために。
私の目の前に着いた電車は、夕日の光を浴びていた、光を浴びた電車の色は、いつもの赤い色ではなく、オレンジに近い、バーミリオンの色に染まっていた。
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