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電車が動き出したが、揺れた方向に違和感があった。駅に着いた方向と逆に進んでいる。
「ご乗車、ありがとうございます。この電車は特急、三崎口行きです。次は京急川崎に停車いたします」
私は深くため息をついた。乗る電車を間違えた、川崎で降りるか、階段上り下りは面倒くさい、それとも、このまま三崎口まで行くか、いっそ実家に帰ってもいいか。
昼下がりの下り電車、羽田空港から来た特急電車は、乗客は私一人であった。少なくとも私の車両の中には。
私は窓際に座り、ただ、外の景色を眺めていた。家という家、ビルというビルが、私に向かって、流れては消えていった。
電車が多摩川に差し掛かったとき、隣の車両から、赤い帽子がニュっと出てきた。
男の子が車内を見回している。男の子は扉を閉めて、私の隣に座った、もう一度言うが、車両の中は私一人しかいない。
男の子は十歳くらい、青のシャツにベージュの短パン、帽子とお揃いなのか、背中にしょっているリュックも赤く、ファスナーの部分が白いラインになっている。赤い帽子のつばも、先端に白のラインが入っている。
男の子はリュックを自分のひざに乗せて、抱きかかえるように両手をリュックにかけた。
もうすぐ、京急川崎駅に着く。
電車がガタン、と音が鳴るたびに男の子が窓を見つめる。外を見ると、大師線の車庫が見下ろせる。目的はこれか。
「電車、好きなの?」
私は夢中になって外を見ている男の子に声をかけた。
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