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私は、隼人君の不安をなくす方法をとっさに考えた。
「もしかしたらね、お姉ちゃんのお母さんが住んでいるお家と、隼人君のお家が近所なんじゃないかと思ってさ、そうだ、先にお姉さんが今住んでる場所を教えるね」
私は、カバンの中から保険証を取り出し、隼人君に渡した。隼人君は私の保険証を、ジッと見つめた。
「お姉ちゃん、住所、品川なんだね」
「そうだよ、京急の終点だよ」
「うん、でも、お姉ちゃんの住んでる駅、逆だよ」
「そう、なんだよね。お姉さん、今日休みだから、今日は三崎口までお出かけなんだ」
「そっか、僕と同じ駅で降りるんだね」
「そうだよ、だから、電車から降りた後も、隼人君とどこまで一緒に帰れるかな、と思ってさ、」
「そうか、ちょっと待ってね」
隼人君は、リュックを回転して、背中があたる部を探し始めた。
「これでわかるかな?」
隼人君はリュックの片面を差し出した。見ると黒いマジックで隼人君と、隼人君の住所が書いてあった。明らかに大人の字だ。隼人君のお母さんが書いたのだろう。
住所は・・・嘘・・でしょ・・・
私は、胸の中の何かが、しめつけられる感覚に陥った。隼人君が持っていたリュック、そこに書かれていた住所は、紛れもなく私の実家の住所であった。
望月隼人、同じ苗字。この子の母親は私と同姓同名。そして住所は実家とまったく同じ。しかも、リュックに書かれている字、よく見ると、私の字だ。
私は、ある信じられない可能性を答えとした。
「お姉ちゃん、住所、どうだった?」
「え、う、うん、ごめん、隼人君。お姉さんのお母さんのお家、全然違う場所だったよ」
「え、でも、同じバスに乗るんだよね、さっき10番のバスに乗るって・・」
「あ、ああ、お姉さん、10番って言ったっけ、お姉さん言ったの、15番じゃなかったかな?」
「え、そうなの?それじゃあ全然違うね、なあんだ、そうか」
「ごめんね、お姉さん、勘違いしちゃった」
隼人君は、リュックを元の方向に戻して、再び外を見始めた。電車は横浜駅に着こうとしていた。
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