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隼人君は、私の子供なのか、正確に言うと、今お腹の中にいる子の、十年後の姿なのか。確か、横浜から三崎口までは一時間弱だったはず、もし、隼人が私の未来の子ならば、どうしても聞きたいことがある。それが果たして、一時間で聞けるのだろうか、私の頭の中は、ぐるんぐるんと思考を回転し始めた。
横浜駅を出ると、特急電車は速度を落とし、カーブの多い区間へと入る。電車は、ビルの合間を縫うように通り抜け、トンネルへと入って行った。今まで夢中に外を見ていた隼人は、窓が暗くなると、隼人は顔を前に向き直した。
「電車、本当に好きなんだね」
私は、笑って話しかけた。
「うん」
隼人は前を向きながら、小さく頷いた。
「やっぱり、京急が好きなの?」
「うん、この帽子も、リュックも、京急と同じ色なんだ」
隼人は嬉しそうに、帽子とリュックを私に見せてきた。
「本当だね、同じ赤色だ」
「違うよ、京急の色は、バーミリオンって言うんだよ」
電車はトンネルを抜けて、日の出町の駅に差し掛かる。隼人は再び外に釘付けになった。
「あれ、確か、バーミリオンは『朱色』だったかな」
「しゅいろ?」
「うん、ほら、神社で、入り口にある鳥居っていう柱があるでしょ?」
「見たことある、くぐるときに挨拶するんだよね」
「そう、その柱の色がバーミリオン、ちょっと京急の色とは違うかな」
「ふーん、でもね、この前お母さんが買ってくれた電車の本に、京急の車体の色のことを『京急バーミリオン』って書いてあったよ」
隼人はリュックから何かの冊子を取り出し、あるページまでめくると、私に見せてくれた。見ると鉄道模型のカタログのようで、めくったページは国内で走っている電車のカラーガイドであった。
「へぇー、あ、本当だ、ここに『京急バーミリオン』って書いてあるね」
数字がふってあるカラーガイドの中に、京急の塗装に使用するカラー名に、その名前があった。
「そうでしょ、だから、ずっと覚えてたんだ、バーミリオン」
「すごいね、よく覚えてたね」
隼人は再び冊子をリュックにしまった。電車は南太田を通過して、再び加速を始めた。
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