バーミリオンの天使

9/14
前へ
/14ページ
次へ
「隼人君、知ってる?京急に黄色い電車が走っているの」 隼人は顔を上げて、私に微笑みかけた。 「知ってるよ、『イエロートレイン』でしょ?」 「そう!京急の、いっぱいある電車の中で、一種類しか走ってないんだよ」 「僕、まだ見たことないんだ」 「そうなんだ!お姉さんはもう三回くらい見たかな」 私は自慢げに三本の指を立てて、隼人に見せた。 「お姉ちゃん、いいなあ、僕、写真でしか見たことないよ」 隼人は携帯電話を取り出して、画像を私に見せてくれた。 「これは、誰が撮ったの?」 「お母さん、仕事の帰りに撮ったんだって、メールで送ってくれたんだ」 「そうか、でも、もしかしたら今日見れるかもよ」 その時、反対側の窓が黄色一色になって、上りの電車が到着した。私は急いで隼人の肩をたたいた。 「ほら、隼人君、黄色、黄色」 隼人が反対を振り向くと、私は窓を指差した。隼人は私のほうに身を乗り出して、反対側の窓を夢中に見始めた。 「初めて見た、すごい目立つね!」 「よかったね、隼人君」 イエロートレインが到着すると同時に、特急電車も動き出した。三崎口までは、あと40分で到着する。 電車は上大岡駅を出ると、加速を始め、金沢文庫駅に向かって走り始めた。隼人は窓をひたすら見つめ、そんな隼人を、私は観察してみた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加