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時代の名は江戸。俺が父上から家禄を継ぎ、楼乱の跡取りと出会う明治より、少し前の話である。
「典文よ、楼乱一族を知っているか?」
「楼乱ですか? 存じ上げません」
俺はこの日、父上に庭に呼び出された。何とも、月が弱々しい形をしていた日であった。
「……そうか。お前もいずれ、この家を継ぐ者だ。今から私が話すことをしっかり聞くがいい」
「分かりました」
言葉ではそう言っていたが、どうにも引っかかった。父上がそのようなことを言うなど珍しい。父上は、自ら多くを語る者ではなかったからだ。
「桜乱一族というのは、ここ一帯の武家の中では逸品の武術を持った武士の一族とされている。我が家との交流も深い……そろそろお前を楼乱家に紹介しておこうと思ってな」
俺は、楼乱と我が家とのつながりなどを聞いた。しかし途中で、父上の話が止まった。
「どうかされましかか?」
いや何でもないと言い、父上は話を続けた。
「……しかし、その一家には少し問題があってな」
「問題と言いますと?」
父上が難しい顔をして言う。
――その一族は代々、女しか生まれないとされている。
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