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用意された紅茶を口に運ぶ。日本で生産されたものだが、何故か何度飲んでも慣れない味だった。しかし、嫌いではない。
「これが紅茶というものか?」
「はい、どうぞ御飲み下さい」
楼乱はマグカップを湯呑の様に持ち、頂こう、と一言言って飲んでいた。……それにしても女性のような仕草一つ見せないな。と思ってから思い出す。楼乱家の女は男も同然であるからして、男と同じような振る舞いを行う。という家訓が楼乱家にはあるらしい。女流一家でも逸品の腕と言われた理由はそこにあるのだろう。そして、それと同時に父上の言葉を思い出す。
――もし我が家に危機が迫れば、楼乱の助けを呼ぶのが得策であろう。
あの頃は、そんな事あるものかと粋がっていたが、現在、この家が危機的状況にあるのもまた事実だ。
「そういえば、明治を区切りに柳沢家は新しい職を手に持ったそうだな」
俺はぎくりとした。同じ武士生まれには、俺が商人になった事に気分を悪くする者も少なくない。そういった者は大体武士であった事に誇りを持っている者だ。目の前の人物もそうであった場合、非常にまずい。
「はぁ、貿易関係がですが……」
「それは良い! 貿易はなかなか複雑で私にはよく分からんが、これから日本が世界を視野に入れるためには、とても重要であるという事は聞いた事がある」
なにかよく分からないが良いという事なんだろう。意外でもあったし、面白い人物だと思った。
「ちなみに、私たち一家はボディービルダーをしている」
「……ボディービルダー?」
「簡単に言ってしまえば、人の警護だ。米国の言葉だから、あまり知っている人も少ない」
そうか、つまり英語か、オランダ語と一緒に最近習い始めたが、やはり勉強が足りないようだ。
「……おっと、雑談が過ぎた。申し訳ない」
「いや、お構いなく。それに、丁度話は繋がりますから」
繋がる? と彼女は言った。そうか、まだ相談事があるとしか言っていなかった。
「俺は、命を狙われています。……恐らく、同業者に」
ここからが本題だ。
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