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脅迫状
ある日俺が、いつもの如くばあ様と他愛もないはぐらかし合いをしていた時。一本の矢が、ばあ様に向かって迫って来た。しかし、軌道は少し逸れていた。そのため、ばあ様でもぎりぎりのところで回避できていた。
問題は、そこに結ばれていていた紙だ。
「我らは貴殿の命などすぐにでも狙えるという事を身を持って忘れないで欲しい。さて本題だ。お分かりの通り、貴殿の命など簡単に狙うことができる訳だが、それも惜しい。若き柳沢家の若様がお亡くなりになれば、病床のお父上もさぞ悲しまれる事だろう。そこで提案だ。百円を我らに差し出せ。我らの気は長く無い。明後日の早朝四時、沢疑橋の下に風呂敷に包んで持ってこい。少しでも怪しい動きをすれば、お前の命はないと思え。明後日に金を支払えない場合も同じだ。では、お互い無事であらんことを」
「百円!? 家が何件立つ額だな、それでどうしたんだ?」
「家に引きこもり、支払いはしていません」
「…………無茶苦茶だな」
彼女は呆れたように言った。
「つまり、得体の知れない者から守って欲しいと?」
「そうです。しかし、少し違います。……得体は、知れています」
「そうか! そういえば……同業者と言っていたか」
「はい、恐らく亀田貿易の長、亀田正志かと」
亀田貿易は、最近有名となった会社だ。
「……あの亀田が? 意外だ」
彼女が驚いた顔になる。
「そうです。例えば最近、亀田はうちの貿易を妨害したり、かと思えば娘とのお見合いを申し込んできたり、勿論、婿入りが条件ですがそれに色々と……まあ、詳しくは省きますが、あちらにとって、こちらを吸収合併することは、結構な事業拡大に繋がります……ざっくりした説明ですみません」
「あちら側の動機なんかどうでもいい、で、?最終的に私に何をして欲しいと?」
彼女が今までと対照的に、とげのあるニアンスで言ってきた。
「最終的に、……俺がして欲しい事は、奴らのしっぽを掴む手伝いです」
その言葉を聞いた時、彼女がニヤリと笑った気がした。
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