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アイスクリン
十日前の出来事を思い出す。この頼みは結局受けた。全く、不思議で面白い者だ。普通なら、ここで「命を守ってくれ」のような言葉が出ると思っていた。自分の命を狙う者を自分でこらしめると、つまりはそういう事だろう。
進展は無かった訳ではない。昨日、「奴ら」から正式な死刑宣告なるものが届いたのだ。
「お待たせした」
隣でそんな声がした。そして、冷気のような気配を感じる。振り返ってみる。声の主は柳沢であった。何事も心配していなさそうな、のんきな顔だった。手には何か怪しげな菓子のような氷のような物があった。
「それは何なんだ?」
思わず聞いてみた。
「これ? これは、アイスクリンというものです。最近海外から輸入されたものです。最近は、海外から様々な物が輸入されて、よく常識が覆されます」
どうぞ、と言って差し出して来た。説明を聞いても何か分からない分、アイスクリンとやらに興味を持った。
「そうか、では頂こう」
一口食べてみた。ゆっくりとろけていく食感がとても良かった。私はすぐに食べ終えてしまい、彼だけが食べている状態がしばらく続いた。
「どうですか?」
柳沢が不安そうな目をこちらに向けている。
「うん、とても美味しい」
良かったです。と初めて見せる笑みを浮かべた。
そして静寂。これは……何か話さないといけない雰囲気だな。
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