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プロローグ
彼女は、空を見上げて小さくため息をついた。空が意外に近く見えるのは、彼女が50階建ての高層ビルの屋上にいるからだ。
空はどこまでも青く澄み渡っていた。だが、ひとたび地上に目を向けると、そこには廃墟が広がっていた。
あの日、何の前触れもなく降りかかった災厄。
わずかな間に、国は滅び国家は消滅した。
生き延びた人々は、わずかだった。
その1人である彼女は、そこで思い出を振り返るのを止めた。頭上には迷彩色に塗装されたヘリが、縄ばしごを下ろしてホバリングで待機していた。
『おい、楠木!』
彼女の無線に声が飛び込んできた。楠木と呼ばれた彼女は、不愉快そうな顔でヘリを見上げた。
『早く乗れ!そのビルはお客さんで溢れてる!すげえ勢いで、そっちに向かってるぜ!さっさとしねぇと…』
その瞬間、屋上へ通じるドアが、勢いよく開いた。同時に、楠木は縄ばしごに掴まり、それを確認したパイロットは、ヘリを上昇させた。
たった今、自分が立っていた場所がみるみる小さくなっていく。だが、そこにうごめく者達の姿は、ハッキリと楠木の目に写っていた。
西暦2058年 東京
そこは、まさにインフェルノだった
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