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第2章 ~拡散~
「・・で?お前さんも指示あるまで謹慎ってか?」
土方は自分のデスクに足を投げ出した格好で、つまらなさそうに、そう言った。安っぽいイスは、使用者の乱暴な扱いに耐えかねて、ギシギシと抗議の悲鳴を上げていた。
「ええ。まあ、無理もないわ。同僚のアタマをブチ抜いちゃったから。」
楠木は両手を腰に当て、ため息混じりに言った。
あの事件から一夜明け、土方と楠木はSTS本部にて報告書の作成に追われていた。特に、楠木は理由はどうあれ、同僚隊員を射殺した事が問題になっていた。当然といえば当然だが。それは土方にしても同様で、彼は警官を撲殺していた。
「金田だけじゃねぇ・・あの犯人に警官、それに死んでたハズの人質2人・・」
土方はそうつぶやいて、煙草を咥えた。
「禁煙よ。」
「るっせえな。火はつけてねえよ。」
あの時の事を、土方は思い出していた。
廊下で確かに息絶えていたハズの警官が生き返り、事もあろうに土方に襲いかかったのだ。その様子は異様としか思えなかった。
「2階で咬まれた奴・・2人だっけ。入院ですって?手の咬み傷が原因で?」
楠木は、紙コップにコーヒーを注ぎながら言った。ふわりと湯気が立ち、インスタントの安っぽい香りが楠木の鼻をくすぐった。
「ああ。2人ともだ。感染症にでもなっちまったのか、ICUで面会謝絶だとよ。」
言いながら、楠木の差し出したコップを受け取った。
「殺された人質・・2人は喉を噛みちぎられていたわ。」
「2階の人質な。下の金田を殺った奴。あいつも人質だったんだろ?」
そう言われて、楠木は思い出していた。人質の女性の生気の失せた顔。足元に倒れていた隊員。
「何発食らっても倒れなかった・・・それに金田・・・あの握力。足を砕かれるかと思ったわ。」
楠木は小さく身震いした。
「今回の一件、人質3名に警官とうちの隊員それぞれ1名が死亡。さらに隊員2名が入院だ。トーシロが1人で起こした事件にしちゃあ、人的被害は甚大だぜ。上もおかんむりだ。」
土方は両腕を左右に広げ、首を左右に振った。
「だから、私達は謹慎なんでしょ。さあ、これ出して帰りましょ。せっかくの夏休みなんだから、満喫しなきゃ。」
「夏休みねぇ・・まあ、いっか。」
2人は、プリントアウトされた書類をつまむと、詰め所を後にした。
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