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検死官は、なんとか手を振りほどこうとするが、遺体の手は、凄い力で彼の腕を締め上げた。そして、彼は徐々に遺体の方に引き寄せられていく。抵抗しようにも、やはり凄まじい力で遺体は彼を引っ張るのだ。
「や、やめろ・・離せ!」
叫んだつもりだが、恐怖のせいかほとんど声にならない。とうとう、彼は遺体の顔のすぐ側まで引き寄せられてしまった。
その時、遺体が目を開けた。
「・・!!」
乳白色に濁った眼球がクリクリと動くと、恐怖に引きつる検死官を捉えた。
次の瞬間、検死官は首筋にあり得ない激痛を感じた。検死官は口をパクパクさせ、体はピクピク痙攣していた。鮮血が噴き上がり、彼の視界を染めていく。
ふっと体が自由になった。しかし彼には重力に逆らう余力は残っていなかった。床の血溜まりに、ベチャッという音を立てて彼は倒れた。
最後に彼が見たのは、ようやく事態に気付き、慌てふためく若い検死官と彼に近づいていく遺体。そして彼が最後に聞いたのは、若い検死官の断末魔の悲鳴と、遺体の満足気にあげた雄叫びだった。
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