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第1章 ~始まり~
蒸し暑い夜だった。時刻は21時を過ぎようとしている。にもかかわらず、ようやく気温は30度を割ろうという有様だった。
「犯罪日和よねぇ…」
楠木は他人事の様につぶやいた。
「あぁ?」
隣に陣取る同僚が不機嫌そうに返した。
「…蒸し暑いわぁ。」
楠木は、首筋に人差し指を突っ込んで新鮮な空気を送り込んだが、こう湿気がひどいと、それすらも不快でしかない。
彼女の名は「楠木美香」25歳。
不機嫌そうな同僚は「土方圭二」32歳。
両名とも警視庁第7機動隊特殊戦術チーム「STS 7」の隊員である。
そして彼女らは今、とある雑居ビルで発生した人質立て篭り事案の解決の為に出動してきていた。辺りは、パトカーやSTSの特殊車両が所狭しと並び、赤や青の回転灯が目まぐるしく明滅していた。
犯人は自動小銃や拳銃で武装しており、既に人質や警官を射殺していた。投降の呼びかけに応ずる気配もなく、当局はSTSによる突入作戦の立案に取り掛かり始めていた。
「ツイてないわ。ほんと。」
楠木は防弾バイザー付きのヘルメットを脱いだ。鮮やかな栗色の長髪が露わになる。
「まあ、ホシは1人。見たところトーシロだ。すぐにカタは付く。」
土方はそう言ってニヤリと笑った。
「ならいいんだけどねー…」
楠木は、眉をひそめて犯人の潜むビルを睨んだ。
「らしくねぇな。…生理か?」
楠木は土方の尻を思い切り蹴飛ばし、ヘルメットをかぶり直した。
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