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地下への階段を降りる楠木の足音が、異様に大きく感じた。靴底が、床を噛む音がこんなに気になったことはない。
階下、遺体安置所があるエリア。少なくとも一個小隊15名の警官隊が下りている筈であった。なのに全く気配を感じない。その代わりに、辺りには血の匂いが充満していた。それを不快に思うどころか、全身にアドレナリンが充満していく。それが楠木美香であった。
階段を下りきると、右への曲がり角だ。先は見えない。床には「POLICE」とプリントされた盾が落ちている。強化プラスチックで出来ているそれは、拳銃弾くらいなら容易に跳ね返す。
楠木は壁を背にして、ゆっくりと顔だけを出して曲がり角の向こうを確かめた。そして、フーっと鼻から息を吐き出し思わず絶句した。
「・・土方」
楠木は首にセットされたインカムを操作した。
『なんだ?』
「地下は一個小隊が全滅よ。血の海。下手人の姿はなし。」
『だろうな。こっちもだ。今8階だが、生きてる奴ぁいねえよ。』
「気をつけなさいよ。」
『お前もな。」
楠木は交信を終了した。ライフルを構え、ゆっくりと踏み出す。床に壁に血まみれの警官達が横たわり、もたれかかり、正に地獄絵図だ。血溜まりを避けようとしても、足の踏み場がない。
どういうこと・・訓練を受けた機動隊員が反撃する間もなかったってこと?
楠木は、何人かの拳銃を調べると、首をひねった。弾切れだった。つまり全弾撃ち尽くしていたのだ。
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