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楠木は右手を上げて応えると、すぐに土方の後ろに移動した。土方は親指で向かいのドアを指差した。楠木は頷く。犯人と人質達がいる部屋だ。
突入班は、屋上から一気に窓ガラスを破り、室内を制圧するだろう。同時にバックアップ部隊が正面から突入する。それらを円滑に進めるために、彼等には仕事がある。
2人は時計に目をやると、いきなりドアを蹴破った。室内に突入すると、それに呼応したかのように今度は窓ガラスが割れ、黒づくめの男女が飛び込んで来た。
総勢7名全員の視線が、犯人と思しき男に集中した。さらに同じ数の銃口が向けられる。
「動くな!!警察だ!!」
突入部隊の面々が口々に叫ぶ。さすがの犯人に観念して、武器を力無く床に落とし、両手を上げる・・と隊員達は想像した。それを油断だと片付けるのは酷だったかも知れない。が、生死を伴う現場において、一瞬の気の緩みは致命的になる。
その犯人は、様子がおかしかった。
「・・・?」
隊員達も警戒態勢は解いていないが、犯人の様子に違和感を感じ始めていた。
犯人は、隊員達の声が聞こえていないかの様だった。薄汚れたジーパンに胸の辺りが切り裂かれた様なTシャツ。両腕をだらしなく垂らし、ゆらゆらと体を揺らしている。そして何よりも隊員達を驚かせたのは、ほほが削げ落ち、骨が露わになった顔。目は乳白色に濁り、目鼻口からは血が流れ出していた。
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