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タツオとテルとジャクヤの3人はなるべく音を立てずに、ジョージたちが拠点にしている東南の端の反対側、西南の方向へ移動した。先頭がテルだ。安全を確認したテルが無音のままハンドサインを送り、それを見てからタツオが移動する。最後がジャクヤで、このおかしな能力者は効果がどのくらいあるのかわからないが、ここにいる3人に戦場での「不可視化」の呪をかけているという。
もっともジャクヤの能力はSFに出てくるような透明マントの類(たぐい)ではなかった。タツオにははっきりとテルの背中やジャクヤの軍服が見えている。敵からは見えにくくなる。あるいは敵は発見しても、それが須佐乃男(すさのお
)操縦者の候補生だと気づかないという形の効果なのだろう。
移動は恐ろしくスローペースだった。拠点の逆側の端にきたときには10数分が過ぎていた。岩陰にもたれて3人がひと息ついていると、明るい照明を浴びた甲3区演習場を観察するテントが見えた。士官や教官がテーブルに向かい、ディスプレイを注視している。この演習場にいるすべての兵士のヘッドセットには暗視機能つきのカメラが装着され、全映像が記録されている。
テルがつぶやいた。
「やつらにはおれたちが今いる場所も、これから移動する目的地もわかる。どう闘い、どう撃たれるかもな」
ジャクヤが軍服の襟元(えりもと)をゆるめた。視線は明るいテントに向いている。テーブルでディスプレイを見ている技術者が気づいたのだろう。こちらに無表情な視線を送ってくる。近衛(このえ)四家筆頭・天童(てんどう)家の分家筋の少年がいった。
「なにもかも記録されている。当然だな。彼らはあとで採点をしなければならない」
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