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タツオは黙っていた。そういう意味では進駐官の評価は恐ろしく公平だった。同時にプライバシーも存在しない。
秋の夜風が吹いて、高原地帯の森のように背の高い岩が林立する甲3区演習場を抜けていった。ジャクヤが風に乗せるようにそっという。
「始まる……」
なにが始まるのか、タツオにはわからなかった。この少年には数百メートル離れた場所でこれから発生するなにかがわかるのだろうか。
「なにをいっているんだ、ジャクヤ」
銀を練りこんだ底光りする瞳でタツオを見つめ返すと、ジャクヤは指を唇にあてた。
「待て」
ほぼ同時につい先ほど脱出した東南角の拠点の方角から、一斉射撃の音が響いた。テルがいった。
「いよいよだな。やつらも本気で潰(つぶ)しにかかってきた」
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