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甲3区演習場の西側の端に沿って、じりじりと移動していく。タツオたちはまったく敵と遭遇することはなかった。敵である先輩進駐官は兵力を集中させ、全力で拠点を潰そうとしているのだろう。
短いが圧倒的な援護射撃と休止。それが4回繰り返されたときだった。ジョージから通話がはいる。
「限界だ。1時間ももたなかった。すまない」
途切れることのない銃声で声もよく聞きとれない。タツオは返す言葉がなかった。ジョージは軽口でも叩くように気軽な調子でいう。
「いや絶望っていうのは、こんな感じなんだな。実戦でなくてほんとによかった。そちらのほうはどうだい」
こちらに心配をかけたくないのだろう。ジョージの心づかいが逆に苦しかった。タツオは先をゆくテルの周辺に気を配っていた。意外なところから敵があらわれる可能性はいつでもある。
偶然にしろ会敵してしまえば、ジョージたちの粘りも無駄になってしまうのだ。
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