プロローグ

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斉藤さんの表情には、同情が混じっていた。 「気にしないでください。諦めてますから……」 「そんなつもりじゃ……と、誤魔化しても無駄なんだな?」 「まあ、顔さえ見なきゃ大丈夫なんですけどねぇ」 「疑ってすまなかった」 ポンと肩を叩かれる。 悪い人じゃないのだろう。 顔を見なくても、本心だって事ぐらいわかるのだ。 廊下のドアがコンっと叩かれる。 一瞬で少しだけ和んだ空気が張り詰めた。 「容疑者、水上達也。連れて参りました」 なんだかお芝居みたいに三沢さんが告げて、部屋に入ってきた。 右手には縄の先、水上の後ろには制服の警官がいた。 慣れた感じで水上はのそりと室内を見渡した。 ちらりと僕の姿を確認して視線を外す。 僕だけにわかる怪訝な表情だった。生で犯罪者を見るのは初めてだった。
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