プロローグ

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例えば君が誰かと恋に堕ちて、身も心も捧げる程に彼女を大切に思ったとする。 偶然にも波長が合って、彼女も君の事を愛する様になる。 素晴らしい。 おそらく、君も彼女もハッピーでいずれ小さな小箱に数ヶ月の労働の対価を費やした指輪を隠して、彼女を夜景の見える場所へ誘ったりする。 もちろん、其れは小洒落たレストランかもしれないし、予算の都合で君か彼女の部屋かもしれない。 でも、そんなシチュエーションは大した問題じゃないんだ。 まあね、他の誰かのプロポーズと比べられて数年後に文句を言われたりする事もあるだろうけれど僕の知ったこっちゃない。 映画や、テレビの真似をして片膝を床につけ『結婚してください』なんて言うかもしれないし、人によっては無愛想に小箱をテーブルへ滑らせるなんて事もあるかもだ。 彼女が頷けば、ゴールなのだかスタートなのだかわからない契約を交わして、同じ扉の先で暮らすのだ。 うん、素晴らしい。 人が人と交わり家族になって新たな生命が芽生える。 脈々と受け継がれる理(ことわり)なのだから、僕は心底素晴らしいと思うのだ。 君か彼女の何方かが、いやもちろん二人共が他人に鷹揚であるか鈍感であれば幸福は永く続くに違いない。 その為にも『嘘』とか、意に沿わない態度だって重要なファクターなのだろう。 僕は、そんな君達が羨ましくて仕方がない。 残念だけれど、僕にはそんなストーリーは望む術もない。 だからいつでも僕は厄介な事を考えてしまう。
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