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如月幸也、僕の名前。名前の由来はどうでも良さそうだ。
群馬の山沿いで僕が母のお腹にいた年が大雪で、雪よりも幸(ゆき)の方が良さそうだなどと笑い話にすらならない理由だからだ。
ネコは、僕が手を掛けるだけでギシッと音がする華奢な窓枠に、微かな軋みすら立てずに飛び乗るのだから、手を叩きたくなるぐらい見事な動作を見せる。
そうそう、彼女の事も僕の憂鬱とは関係がない。
其れどころか彼女の存在には感謝しているぐらいだ。
「ふぅっ……」
スプリングがギシっと音を立てるシングルのベッドで、汗だくの上半身を起こす。
枕元に置いてある小さな丸いテーブルの上で充電していたスマホの画面を確認した。
メールが二件。
一件はアルバイトの依頼で、厄介な類いのメールだった。
もう一件は迷惑メールなのだから、僕の人間関係は君にも察しが付くだろう?
六畳の部屋と狭いキッチンとユニットバスのアパートぐらいに、僕の交友関係は狭いのだ。
シャワーを浴びて、洗い立てのティーシャツにジーンズを履き、肩から背中へ回すバッグに財布を放り込む。
冷蔵庫から100%のオレンジジュースをパックごと口に付けて流し込んだ。
電車は苦手だ。理由は簡単。人混みは大の苦手。
大学へも、都内へ行くのもバイクで、真冬の刺す空気も、雨の日も、余程遠くへ行かない限りこれが移動の手段なのだ。
キーを捻る、エンジンが吹き上がる。
スロットルを捻り込み夏の日差しが照り付けるアスファルトへ乗り出した。
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