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僕が憂鬱なアルバイトを始めた経緯は、後回しにしよう。
その事を説明するには色々と話さなければいけない事があるからだ。
横浜のアパートからバイクで一時間弱。
東京の日比谷にあるビルの一室がアルバイト先。
八階建てのこじんまりしたオフィスビルで、最上階がアルバイト先だった。
いつもの様に、一階のロビーで連絡を入れる。
不機嫌な男の声が返事をした。
『下で待ってろ……』
「えっ?」
僕の返事も待たないでガチャ切りするのだから失礼極まりない。
それにしても珍しい。
いつもなら『上がれ』そう告げられてエレベータに乗り、頑丈なセキュリティの扉の中へ迎えられる。
それから、受付で情報の秘匿やらとか云う書類にサインをさせられてアルバイトが始まるのだ。
よれたスーツに煙草の匂いが纏わりついた不機嫌な中年男がエレベータから姿を見せる。
苗字は佐竹、名前は聞いた事もない。
「行くぞ……」
「へっ? 何処へですか?」
答える気はなさそうだ。まあ、この人にホスピタリティを求めるのは「ネコ」が僕の膝に乗っかるぐらい難しいだろう。
諦めて中年男の丸まった背中の後ろを歩く。
ワンブロック歩いた先、コインパーキングで小奇麗なセダンのドアを開けると、顎の先で乗れと命令する。
不愛想にも程がある。
「それで?結局、どこへ行くの?」
「本社だ……」
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