プロローグ

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ふーん、何だか腑に落ちないけれど余程の事態なのだろう。 日比谷公園を皇居沿いに回り込み、バカみたいな渋滞の中を苛々する中年の助手席で過ごす。 まったく勘弁してほしい。 桜田門の交差点を左折して、すぐに車は街路樹の隙間から駐車場へ乗り入れる。 警視庁本庁舎……僕は犯罪者ではないけれど、出来れば出入りなどしたくない場所だ。 「ヤな感じ……」 「まあ、そう言うな。俺も出来れば此処へお前を連れて来たくなかったんだがな。今回は別だ」 「うわっ、ますますヤな感じ。佐竹さんのセリフが長いや。聞きたくないけど、そんなにアレなの?」 「ああ、江東区の女子大生めった刺し――」 「ストップ! 帰りたくなってきたんだけど」 「確信は在る、確証がない。拘留期限は明後日だ……まあ、奴が又事件を起こしてお前さんの寝つきが悪くならなきゃ良いんだがな」 「佐竹さんってさ……」 いつもそんな風に人を脅すのか、と言いかけて止めた。 佐竹さんがいつも不機嫌なのは、根底に怒りがあるからだ。 今日の佐竹さんはいつも以上に不機嫌な表情なのだ。
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