1 乾杯

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 ビールのグラスを挙げる兄二人の笑顔を無視して、里桜は手にあるお洒落なカクテルグラスをガボっと豪快にあおる。薄いピンク色のピーチリキュールをメインにつくられた、甘い口当たりで人気の一品である。 「すみませーん。ピーチフィズ、もうひとつうー」 「里桜、ここ、居酒屋じゃないんだから」 「飲む。今日はがっつり飲む。うちに帰れないんだし!」  かなり荒れ気味の里桜を前に、兄二人は困ったように顔を合わせた。この件についての良案があるかどうか、お互いに相談するように眉尻を下げる。 「あんのクソおやじ。ワケわっかんねえんだよ」  脳天から恨み節がモヤモヤと浮かび上がるような里桜の様子から、父親との間でコミュニケーション不足が発生したことは明らか。そしてそれは、二十歳の誕生日がらみ。 「親父も毎回作戦を変えてくるなあ」 「一応学んでるってことじゃねえか」 「学んでなんかいねえよ。里桜がこれだもん」 「そっか」 「二人でナニごちゃごちゃ言ってんだよ!」  里桜の荒ぶる怒りを鎮めるべく、すでに家を出て独り立ちしていた崇と裕の二人の兄が、里桜が今夜泊まるこのファイブスター・ホテルに駆け付けた。
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