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崇は長男で二十九歳。すでに結婚していて子どももいる。肩幅が実家の和室にあるふすまのように広く、柔道の絞め技でもかけられたらきっと逃れられない。そんながたいのくせに、自治体の公立保育園の保育士という仕事をしている。
保育園に預けられる子どもが、大柄な崇のことを見た途端に泣き出すのではないかと心配するのは里桜たち身内だけ。
本人の弁を借りると、子どもを預けるママさんたちからの信頼は厚い、とのこと。まあ、兄の事だからそうなんだろうと納得している。
次男の裕は、崇より三歳下で二十六歳。まだ独身でまだ学生。大学付属の研究所で、カタカナばかりが並ぶよく分からない科学のような技術のような開発の研究をしているのだという。
ただし、よく分からないと言っているのは、里桜をはじめとする家族ばかり。同じ家族なのにDNAのどの部分が違うのだろうと思うくらいに頭脳の優秀な兄のことを里桜は誇らしく思っている。
末っ子の里桜は、さらに六歳離れてめでたく二十歳を迎えたばかり。自宅から大学に通う普通の学生。だった。
「アニキッ!」
里桜が目の前にいる兄二人をまとめて呼ぶ。飲んでいるピーチフィズに酔ったわけでないはずなのに、大きなその目を稲妻のように血走らせる。
「絶対に逃さない」と言わんばかりのその迫力の視線を、「どこにも逃げませんから」と受け入れるように兄たちは構える。
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