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すぐ隣のテーブルにいた中年女性四人のグループと目が合う。ファイブスター・ホテルのラウンジレストランに相応しい、セミフォーマルな服装で優雅に食事をしている様子。
里桜の声と言葉が筒抜けだったのだろう。こちらをチラチラと見て、やや怪訝な表情を見せながらも、自分たちのおしゃべりに興じる。
ゴシップ好きの仲の良いお友達同士、忙しい家事育児から離れてたまにはこんなところで食事も良いだろうという、そんな集まりだろうか。
里桜を含めたこちらのテーブルのことを、「席を変えてほしい」とでも思っていないことを願う。そんな思いで裕は視線を別の方向へ動かす。
「それでは、ご注文を繰り返させていただきます……」
女性のグループよりももう少し向こうのテーブルに、上品な老夫婦らしきカップルが見えた。何かの記念日なのだろうか。シャンペンを掲げてにこやかに乾杯していた。
こちらを気にしていなそうな雰囲気に、裕はほっと胸をなでおろす。里桜の場違いな発言があそこまでは届かず、せっかくの乾杯がぶち壊しにならずにすんだと思うと、世界の平和が訪れたかのように安心した。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか」
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