第3章   女性彫刻家

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その翌日だった。 彼女は、オフィスビルの回転ドアを開けて、出社しようとしたときだった。 誰かとぶつかった。 彼女の手からバックが落ちた。マグネットのバックのボタンがはずれ、中身が散乱した。 「ごめん」と彼が言った。 なんと、相手は雄太だった。 「急いでいたから、ごめん、ごめん」と彼は言うと、慌てて、バックから飛び出した物を拾い集めた。 「大丈夫よ」と彼女は言うと、かがんで一緒に拾った。 彼は、拾い集めた物を手渡すとき、彼女に言った。 「君、この頃元気がないね」 「気のせいじゃない。何もないもの」と彼女は冷淡にこたえた。 「これから、仕事に出るのね。吉田さん」と彼女は言った。 「ああ」 「気をつけて、いってらっしゃい」と彼女は言うと、足早にエレベーターに向かった。 エレベーターに乗り込むと、彼女はその天井を見上げた。 涙がこぼれそうだったから。
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