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「ド、ドアごとはやめなさい!ドアの修繕費だって馬鹿にはできないんだ。わかるだろう?」
「わかるわ!でも、今は着替え中なのよ!」
セシルはすでに16歳。
世間から見れば立派な大人として見られる年頃なのだ。
幼少期ならともかく、大人であることを自覚し始めているセシルにとって、男性でもあるバルトに半裸体の姿を見せるのは羞恥のことであり、あってはならないことであった。
「お父様の行動によっては本当にやるわよ」
「セシル、少し落ち着いてくれ」
「そもそも着替えてきなさいって言ったのは、お父様じゃない。それに、レディの着替えは時間がかかるものよ!」
「着替えてきなさいと言ったのは、ワシだが...そろそろ家を出たいところでな。それに、待ち合わせに遅れるのは印象が悪くなる」
ドア越しの為、バルトの姿は見えないが焦っていることだけは声色から察することができた。
そもそも着替えているのも、セシルのバディ候補に会いに行くのに、学院の制服では格好がつかないというところからである。
初対面の相手ともなれば、第一印象は重要だ。
バルトの紹介でも、もしかしたらミリアの言う優良物件の可能性もゼロではない。
だからこそ、最初の第一印象を悪くするのはセシルにとっても都合が悪いことだった。
「そうね。お父様の言うとおりだわ。
早く着替えてリビングへ行くから、お父様は少しだけ待っててもらえる?」
「ああ、わかった。ワシもすぐに出られるようにしておく」
扉の向こうでバタバタと遠ざかる足音を聞き流しながら、セシルは中断していた着替えを再開するのだった。
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