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序章:焼却の記憶
赤色が眩しい。
激しく揺らぐ炎が、少年(アルベルト)の思い出の欠片を一つ…また一つと灰へと変える。
焼失し朽ちていく部屋の片隅で虚ろな目をしたアルベルトは、その光景を呆然と眺めていた。
家族は両親に姉、自分を含め、4人だった。
いつも忙しい家事をする合間で優しく話しかけてくれる母。
仕事帰りお土産にと好物のパイケーキを持ってきてくれる父。
一緒に野原を駆けて遊び、これからも変わらず共に過ごしていくはずだった姉。
しかし、数時間前に確かにそこにあったであろう穏やかな日常は塵となり灰となり崩れてゆく。
力なく自分に身を預けるように倒れている母を一瞥し、自らが置かれている状況を把握するべく周囲に視線を移していった。
「これは...なんだ」
赤く染まった木材に挟まれている父、姉の状況を確認して、アルベルトは地獄かと錯覚するほどにショックを受けた。
瓦礫が倒れる度に火の粉が舞い、アルベルトの黒髪の端を焦がすもそれに反応することはなかった。
すでに暑さも痛みも感じない。
その代わりに、胸から腹にかけて違和感があった。
母の伸ばした手に赤黒い液体が滴り落ちている。そして、同じ色の液体が自分の胸からも滲み出ていた。
何が起きているのかを思案するが、何も浮かばない。
思えば、家に火が燃え広がっていく瞬間の記憶がごっそりとなかった。
自分はしばらくの間倒れていたのではないか…。
必死に思い出そうとする中、一つの答えに辿り着いたところで、徐々に気持ち悪さを感じるようになった。
熱された空気と灰が呼吸する度に喉を焦がす感覚が纏い、意識までもが朦朧としてきた。
しばらく苦しみに耐えていたアルベルトも身動きが取れないまま、徐々に視界が滲んでゆく。
そうして最後には意識を手放すのであった。
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