序章:焼却の記憶

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「また、あの夢か...」 汗だくになり、不快感を残したまま、アルベルトはゆっくりと瞼を上げた。 部屋に一つしかない窓を覗くと太陽の日差しが差し込み、その眩しさに目を細めた。  眼球に熱と刺激を感じるのは、寝起きで朝日に慣れていないのだろうか。 それとも、太陽の光がいつにも増して赤く、あの忌々しい炎のようだと錯覚しているからなのか。  絶望を味わったあの夜も気づけば10年も前のことなのに、呪いでもかけられているように何度も夢として見させられてきた。 この夢を見た後では二度寝をしようとも思えない。  アルベルトは軽く勢いをつけてから起き上がり、ベッドから降りた。 そうして、流れるようにベッドに立て掛けていた何の変哲もない灰色の剣を鞘ごと手に取り、下宿の階段を下りる。 「あら、おはよう。今日は早起きね、アル」 「おはようございます。メルおばさん」 降りたところで、下宿先のお世話になっている管理人のメルに挨拶を交わし、裏庭に向かった。 アルベルトは裏庭に着くと、剣を鞘から抜いた。剣に刃こぼれのないことを確認してから胸の前に剣を構え、剣先を目線の先に向けた。力が程よく抜けた自然体での構えであった。 そこから剣を頭の前まで振り上げ、勢いよく振り下ろす。まっすぐ線を引くように振り下ろした剣は空を斬り、音を靡かせた。 まったく無駄のない動きで、何度も剣を振るう。 アルベルトは、今年で16の歳となる。アルベルトが現在住んでいるアリシア帝国での成人は16歳であり、アルベルトも立派な成人男性の仲間入りを果たしていた。 最初は剣の重さに戸惑い、武器に操られるように振っていた素振りも10年間振り続けた結果、今では国の一級騎士にも劣らないほどに成長した。 「498、499、500...」 500回数を数えたところで、アルベルトは素振りを止め、タオルで汗を拭った。 「今日はこのくらいにしとくか」 いつもなら、一休みを終えてから再度素振りと走り込みを行った後しっかりクールダウンを行うが、今日は生憎と用事があった。 アルベルトは自室へ戻り、早々と外行き用の服装に着替え下宿を出るのだった。
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