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「そんな…」
たしかに最近、唯斗の自転車はキキキーという嫌な音を立てていた。見てもらったほうがいいよと何度か言った覚えがある。
「というか…なんでそんなこと、ニャニャフィちゃんが知ってるの?」
「うーん。そうだねえ…」
うさんくさい感じのニャニャフィちゃんは、顎に手を当てるしぐさをしてうつむいた。
「ボクのことなんか気にしてるヒマははっきり言ってないよねー。もう彼氏の死は、すぐそこまで迫ってるんだよー? 鈴ちゃんはどうするのさー」
「どうするって言われても…、ちょっと待って! 唯斗に電話してみるから」
スマホを取り出してロック解除しようとする指を、ニャニャフィちゃんにさえぎられる。
「そんなヒマはないって言ったよねー? もう10分ちょっとしかないんだよー。それよりもさ、鈴ちゃんにひとつだけできることがあるんだけど…知りたいかなー?」
鈴は首をすばやく縦に2度振った。
何故だかよくわからないが、ニャニャフィちゃんの姿をしているだけで信用してしまっているらしい。
「手短に言うから、よく聞いてほしいよー。彼氏を助けるには、鈴ちゃんが心が必要なんだよねー」
「私の心?」
「最愛の人に関する記憶、と言ったほうが正しいかなー。最愛の人のことを忘れちゃう代わりに、命を助けてあげるよー。ボクが使えるたったひとつの魔法なんだよねー。」
最後のくだりは少し得意気に顎をあげて見せた。
鈴は大きな瞳を見開いて、うさんくさいニャニャフィの顔をまじまじと見つめている。言っていることの何割かが理解できていればマシな話だから仕方がない。はっきり言ってツッコミどころだけで構成されている類の話だった。
「そっか…それってニャニャフィちゃんが助けてくれるってことだよね? 唯斗のこと」
「だねー。ボクは鈴ちゃんの味方だよねー。いつでもねー」
その言葉を聞いて、鈴はほっとため息をついた。
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