1人が本棚に入れています
本棚に追加
虫みたいだ。ぞわぞわする。
「何を言ってるんだって思うよね? 僕も思うよ。でもね、本当なんだよ。ある日神様が降りてきたんだ。僕の目の前にね。形容しがたい御姿だったよ。平たく言えば気持ち悪かった。それでもね、神様は僕に一冊の本を託してくれた。それは今、僕の胸の中にあるんだ。それのおかげでね、僕は書き手になれたんだよ」
胸に手を当てて、愛おしそうに撫でている。
「だけど、やっぱり想像しちゃったからかな。この感じだと、他にも何人か生き残っていそうだよね。困ったなあ。絶滅させたかったのに。僕も死ぬ予定だったのになあ」
死ぬ、予定だった?
つまりじゃあ、全人類は、こいつの自殺に巻き込まれたっていうの?
冗談じゃない。こいつのせいで、こうなったんだ。このよくわからない、気持ち悪い生き物のせいで、私は、ただ暑い中でアイスを食べていただけだったのに。
幸せも不幸せも、まだちゃんとわかってもいなかったのに。
絶望だけを、下手くそな絵を描いた紙を見せるように見せやがって。
後ずさりそうになった手に、何かが当たる。
これは、硝子?
割れて何処かから飛んできた、厚いガラスだ。先がとがって、握ったら手が切れそうだけど、これを、これなら。
「もっと効率よくいけたかもしれないよね。僕って要領悪いのかな。派手な演出に拘り過ぎたのかな?」
これなら、こいつを黙らせられるんじゃないか。
迷い無く、その硝子に手を伸ばし、しっかりと掴む。
振り向くと、独り言を言いながら目を瞑ってふざけた考えを巡らせている。
こいつさえ、いなければ。こいつのせいで――。
腕を振り上げた。
胸に目がけて、振り下ろす。
その瞬間、もう止められい、一秒にも満たない一瞬に、疑問符が浮かんだ。
どうして私は、ミコトの話が本当だって、信じてるの?
胸に硝子が深く刺さって、ミコトが血を吐いた。
え、うそ、なにこれ。なんで、なんで私、ミコトを刺したの?
「私、なんで、ミコト? ねえミコト、ごめん私、なんでっ」
「あ、ははは、どうして、アンナはちゃんと、操れないのかな」
血を吐きながら、ミコトは微笑みを崩さない。
わけわかんない。どうして、何が起きてるの。
最初のコメントを投稿しよう!