無想

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 虫みたいだ。ぞわぞわする。 「何を言ってるんだって思うよね? 僕も思うよ。でもね、本当なんだよ。ある日神様が降りてきたんだ。僕の目の前にね。形容しがたい御姿だったよ。平たく言えば気持ち悪かった。それでもね、神様は僕に一冊の本を託してくれた。それは今、僕の胸の中にあるんだ。それのおかげでね、僕は書き手になれたんだよ」  胸に手を当てて、愛おしそうに撫でている。 「だけど、やっぱり想像しちゃったからかな。この感じだと、他にも何人か生き残っていそうだよね。困ったなあ。絶滅させたかったのに。僕も死ぬ予定だったのになあ」  死ぬ、予定だった?  つまりじゃあ、全人類は、こいつの自殺に巻き込まれたっていうの?  冗談じゃない。こいつのせいで、こうなったんだ。このよくわからない、気持ち悪い生き物のせいで、私は、ただ暑い中でアイスを食べていただけだったのに。  幸せも不幸せも、まだちゃんとわかってもいなかったのに。  絶望だけを、下手くそな絵を描いた紙を見せるように見せやがって。  後ずさりそうになった手に、何かが当たる。  これは、硝子?  割れて何処かから飛んできた、厚いガラスだ。先がとがって、握ったら手が切れそうだけど、これを、これなら。 「もっと効率よくいけたかもしれないよね。僕って要領悪いのかな。派手な演出に拘り過ぎたのかな?」  これなら、こいつを黙らせられるんじゃないか。  迷い無く、その硝子に手を伸ばし、しっかりと掴む。  振り向くと、独り言を言いながら目を瞑ってふざけた考えを巡らせている。  こいつさえ、いなければ。こいつのせいで――。  腕を振り上げた。  胸に目がけて、振り下ろす。  その瞬間、もう止められい、一秒にも満たない一瞬に、疑問符が浮かんだ。  どうして私は、ミコトの話が本当だって、信じてるの?  胸に硝子が深く刺さって、ミコトが血を吐いた。  え、うそ、なにこれ。なんで、なんで私、ミコトを刺したの? 「私、なんで、ミコト? ねえミコト、ごめん私、なんでっ」 「あ、ははは、どうして、アンナはちゃんと、操れないのかな」  血を吐きながら、ミコトは微笑みを崩さない。  わけわかんない。どうして、何が起きてるの。
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