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「おはよう、ナナ。付き合わせて悪いな」
柔らかそうな黒髪の青年が、微笑む。
「ううん。私も、デパートに用事あったから丁度よかったわ。それより、待った?」
私は、走って広がった前髪を整えながら、答えた。
「待ってないよ。今来たところ」
「そっか……。よかった。さっ、行こう!」
二人は、歩き出したーー。
黒のスキニーパンツを履き、黒の半袖Vネックシャツを着た彼に付いて行く。
私は、フワフワしたワンピース。
こんなの、どう見ても恋人だろう!
しかも、美男美女!
誰もが羨み、讃えるカップルだろう!
なのに、実際は……
「もう、聞いてー!彼ね、『悠太郎のこと、そんな風に見れない。つうか、もう関わんな』とか言うのよ!あんな奴だなんて思わなかった!」
「その台詞、いつも言ってんじゃん。ユウは、男見る目無いんだよ」
「ナナも、彼氏いないくせに……」
誰のせいと思ってんの?と言ってやりたくなる。
そう、私、"伏目ばなな"が十五年近く片想いしてる"長谷部悠太郎"は、ゲイなのである。
つまり、私は恋愛対象外というわけだ。
それでも、嫌いになれないのが乙女の性……。
始めは女の子が恋愛対象だった。
しかし、中三の夏、気付いてしまったらしい。
彼との出会いは、幼稚園。
そこから、当たり前のように小中と同じ学校だった。
ことは、中学最後の夏休み、始まってすぐに起きた。
「ナナー!ナナ、大変だよー!」
悠太郎の声で風鈴が揺れる。
「何よ?他人の家に勝手に上がった上に、大きな声出さないで!」
思えば、「ばなな」というキラキラしてないキラキラネームを気にしていた私を「ナナ」と呼ぶ処が好きだったんだろう。
ついでに、ユウ以外の男子は、"伏目さん"と呼んでいた。
やっぱ、美少女は辛い……。
「また、勉強してんの?俺と同じ北高だろ?余裕じゃん」
余裕じゃないから、やってんのよ!とつくづく言いたくなる。
「てか、なんで北高?遠くない?」
あんたと同じ高校に行きたいからよ!とは言えず……、
「偏差値高いから……」
「ふーん……」
北高は、この辺でも一、二位を争う難関校だ。
悠太郎は、授業を受けるだけで、点が取れる天才タイプ。
こう言うのも、無理はない。
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