第1章

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目の前に現れた最大の敵、ではなく使用不能のトイレを前に科学部員たちは困惑していた。そもそも使用不能って何だろうか。そこは使用禁止ではないのかと突っ込んでしまう。 「誰が開ける?」  しかし目下考えるべきは日本語の問題ではなくこれだ。円陣を組んだところで桜太が訊く。 「それは部長の仕事だろ?」  すぐに逃げたのは優我だ。桜太の肩を押してお前だと主張する。 「いや。ここは前部長で変人パラダイスを守りたい大倉先輩が」  その桜太は亜塔の肩を押した。何だか向き合ったまま押し競まんじゅうをしている感じだ。 「いや、ここは先生の仕事だろう。生徒を危険に晒すような真似はしないですよね?」  莉音がにっこりと笑って言う。日ごろの恨みに加えて気に入られていることを利用するというコンボ技だ。やはり怒らせてはいけない人物であるらしい。 「うぅ。解ったよ」  どうして嫌なことばかり押し付けるんだとの思いもあるが、莉音に嫌われてはその完璧な説明を聴けなくなると思う林田は渋々ドアに近づいた。やはりアイドルオタクであることより理系であることが大事。そうなると、莉音のような完璧な説明は音楽に勝るというのが林田の持論なのだ。  しかし気持ちを反映してかもさもさの天然パーマが心なしか萎びている。使用可能な個室であれだったのだ。どう考えてもこの使用不能な個室はやばい。 「行くぞ」  覚悟を決め、林田はドアの取っ手を引っ張った。しかしどうにも開く気配がない。 「鍵が掛かっているんですか?」  必死に引っ張り始めた林田に、桜太は呆れながら訊いた。鍵が掛かってるならば別の作戦で開けたほうがいい。 「いや、何かが引っかかってるんだ。鍵は壊れているみたいだね。ちょっとだけ開くよ」  必死に引っ張りながら林田は言う。すると、ドアがみしっと音を立てた。
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