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思い出と戦場
【9.白猫】
空中で蛇が踊っている。湿った鱗をてらてらさせて、お互いの尻尾に咬みつき合って。二匹の蛇がひとつの輪になって、ぐるぐるぐるぐる。
蛇の輪がねじれている。俺は目だけを動かして、蛇の鱗を辿る。
ぐるぐるぐる。
ぐるぐるぐるぐる。
蛇、血塗れの、蛇。
ぽーん。
飛んで行ったのは、灰色の蛇。灰色のゆびと、つめが付いている。
サザンカが何か叫んだ。サイコロの名前。俺が付けてやった名前。あの馬鹿、また何かやらかしたんだ。だから、こんなに血塗れで。血が、目の前で、一杯。汚しやがって、馬鹿が。次の洗濯当番は俺達なんだぞ。軍服をそんなに真っ赤にして、どうするつもりだ。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐる。
ああ、目が回る。
だれかがないているな。
銃声が五月蠅い。近所迷惑だ、静かにしやがれ。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。
回っても回っても終わらない。蛇の鱗を一枚一枚辿っていたはずの視線は、気が付くと一番最初の場所に戻って来ている。
ぐるり、ぐるり。
永遠に終わらない。
この、世界も、この、戦争も。
……本当に?
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