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「白猫に続け!」
刀を振り上げて、サザンカが叫ぶ。本当はあれをやるのは軍曹の仕事なのだが、酔っ払いではサマにならないので誰も指摘はしない。
教育目的のカメラにちらちらと目線を送りながら、北兵も南兵もそれぞれの武器を持って戦う『振り』に興じる。俺がサイコロにキスした場面は、後で編集されて切り捨てられるんだろう。エルフ族の故郷では男同士、女同士の結婚だってごく当たり前に行われていたようだが、この星ではそうも行かない。
サイコロは俺と背中合わせになって、無茶苦茶に刀を振り回しながら何かわけのわからないことを喚いている。本気の殺し合いならばこうは行かないが、戦争ごっこなら周りを観察する余裕だって十分にある。
そう言えば、南兵の中に何となく顔見知りが増えた。流石に話したことは無いが、それぞれ大体の見分けが付くようにはなって来ているな。
「ガットリング砲、用意! ……撃て!」
サザンカがひと際大きな声を上げた。機関銃を使うから注意しろ、と、南兵にも呼び掛けるためだ。その指揮に合わせて、頬を紅潮させたスバルがガットリング砲の引き金を引く。この機関銃は、見た目は少し大砲に似ているが、実は全くの別物だ。車輪付きで押して運ぶという点がそっくりなもんで、俺も兵隊になったばっかりのころはあれを『大砲』と勘違いしていたっけ。
しかし、今日はやけに気前が良いな。いつもはガットリング砲なんて面倒なものは使わないくせに、やっぱり撮影の為なのか。緑も今日は寝ていないし(果てしなく眠そうだが。相手をしている南兵が、何とか大げさに動いて誤魔化してくれている)、アドルフに至っては兵長よりも少しでも目立とうと、わざとカメラに近付いて自動小銃を振り回している。
月子の奴は……ああ、やっぱり。こいつだけは、カメラがあろうと無かろうと少しも自重しない。わざとよろけた振りをしてはトンビにぶつかり(ちなみにお相手のトンビは、目が悪すぎるせいで分厚い眼鏡を戦っている最中も外せない可哀そうな男だ。背も月子より少し低めで、月子はあんな奴のどこが良いのか皆不思議がっている)、トンビの方も眼鏡ごしに月子に視線を送ったり、いつも通りのデート戦争だ。
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